聞いてくれ。  
 俺は当時小学校3年生。一緒にプレイした兄貴は中学生だった。  
 機種はワインレッドのX1−C。もちろんRPGは初プレイ。  
 経験値をためて、装備をグレードアップして、だんだん強くなる我が分身。興奮したよ。  
 でも、俺たちは気づかなかった。廃墟のなかのダンジョンの入り口に。  
 井戸こそ、地下迷宮への入り口だと思い込んでいたのさ。  
 クラーケンの凶悪な強さは、理不尽だとは思った。  
 でも、俺にも、兄貴にも有り余る時間があった。  
 墓場と井戸1階の雑魚を倒して経験値を稼ぎ、再ロードで敵データを初期化する日々。  
 レベル6を超えたあたりから、数十回の戦闘でワンドットしか経験値は増えない。  
 レベルが上がるたびにクラーケンに挑み、皆殺しにされる。  
 あれは2、3ヶ月後のことだったか。  
 俺たちは、ついに、倒した。やつを。  
 これで冒険の入り口に立った、と狂喜したさ。  
 しばらく地下5階をうろつくと、あったよ、階段が。上りの。  
 どんな強敵が出てくるのか、わくわくしながら4階に飛び込んだ。  
 でも、様子がおかしい。敵は、明らかに弱くなっている。  
 そのまま、3階、2階、1階と、ていねいにマッピングしながら、俺たちの冒険は進んだ。  
 そしてついに、俺と兄貴は発見したんだ。ダンジョンの入り口を。  
 見上げると、ウツロの町の星空が、目にしみたね。
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